三角形には、見た目以上にたくさんの不思議が隠れています。
その中でも、三角形の特別な「心(しん)」と呼ばれる点──重心・垂心・内心・外心──には、みんなの興味をひく性質があります。
それは、「三角形の3つの頂点と辺の特別な点を結ぶ直線が、ぴったり1か所で交わる」という不思議な性質、つまり「共点性(きょうてんせい)」と呼ばれるものです。
この現象は単なる偶然ではなく、とても美しい「チェバの定理」を使うと、きちんと説明できます。
ただし、チェバの定理を使いこなすためには、三角形の基本的な性質(たとえば、三角形の相似の条件や、円の外側から引いた2本の接線の性質など)を少し知っていると理解がスムーズです。
でも心配いりません。これらの知識は中学生でも十分に学べる内容で、難しすぎるものではありません。
ちなみに、三角形には “傍心” というちょっと変わった「心」もありますが、これはチェバの定理の少し複雑なバージョン(外角を使う場合)に関係するため、今回のシリーズでは扱わないことにしました。気になる方は、ぜひ自分で調べてみてくださいね。
この連載の第1回では、まず「心」について軽く紹介し、その後にチェバの定理を解説します。
そして、最も基本である「重心」がなぜ共点になるのか、その秘密をわかりやすく紐解いていきます。
垂心・内心・外心については、次回以降に順を追って解説しますので、安心して読み進めてくださいね。
三角形の“心”とは
「重心・垂心・内心・外心」とは、下の表にまとめた三角形における特別な交点です。

いずれの心も3本の直線が1点で交わっています。不思議ですよね。


チェバの定理とは?
三角形の「3本の線が1点に交わる」という現象を説明する最大の武器が「チェバの定理」です。
この名前は、17世紀イタリアの数学者 ジョヴァンニ・チェバ(Giovanni Ceva, 1647–1734) に由来します。
ミラノ出身のチェバは、三角形の構造に深い関心を持ち、この共点性に関する定理を 1678年ごろ に発表しました。
彼は数学だけでなく、力学や水理学にも造詣が深い多才な人物で、幾何学を使って構造物の安定性を分析するなど、実践的な研究にも取り組んでいました。
このような応用的な視点が、「3本の線が1点で交わるための条件」という発想を導いたのかもしれません。
さて、そのチェバの定理とは、三角形において、頂点から対辺に引いた3本の線分が1点で交わるための条件を、「辺上の点と頂点間の長さの比の積」で示すものです。
定理
三角形ABCと1点Pがあるとき、AP, BP, CPがBC, CA, ABと交わる交点をD, E, Fとすれば、
$$\frac{AF}{FB} \times \frac{BD}{DC} \times \frac{CE}{EA} = 1 \quad \cdots\;※$$
が成り立つ。
定理の逆
三角形ABCの辺BC上に点Dを、辺CA上に点Eを、辺AB上に点Fをとる。
このとき、※が成り立つならば、3直線AD, BE, CFは1点で交わる。

まずは「重心」から ― 最も基本の共点性
チェバの定理を使うと、「重心」の共点性を説明することができます。
三角形ABCにおいて、それぞれの辺の中点を以下のように定めます:
- 辺BCの中点 → D
- 辺CAの中点 → E
- 辺ABの中点 → F

このとき、BD = DC、CE = EA、AF = FB より
$$\frac{AF}{FB} \times \frac{BD}{DC} \times \frac{CE}{EA}= \frac{1}{1} \times \frac{1}{1} \times\frac{1}{1} = 1$$
よって、3直線AD・BE・CFは1点で交わります。

これが「重心」と呼ばれる点です。重心は、三角形の内部で、「質量の中心」や「バランスのとれた点」としても知られています。
チェバの定理の中でも、比がすべて1になる最も基本的な例として、導入にぴったりの存在です。
その2へつづく
次回の「その2」では、垂心・内心・外心というやや複雑な共点について、それぞれの定義と構造を踏まえながら、チェバの定理を用いて解説します。お楽しみに。
(文責:みうら)
著者プロフィール 数学博識王みうら(三浦章)

みうら(三浦 章) math channelマガジン数学博識王
国立市在住。東京工業大学大学院修士課程を修了後、通信キャリヤで30年ほど通信サービスの研究実用化に従事。15年ほど前に、大学教員に転身。情報システム、数学、問題解決フレームワーク等を教えてきました。5年ほど前から地元公民館で月2回程度市民向け数学教室も開催しています。近頃は数学的背景のあるパズルに興味があり、その内容の発信にも関心があります。博士号(工学)、高校教員免許(数学)あり。
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