こんにちは、math channelマガジンデスクのほんです。
math channelマガジンを運営するmath channelは、10代から60代まで約40名のスタッフが、教室運営やコンテンツ開発など、それぞれ様々な活動をしています。
彼ら彼女らは、どんな子ども時代を過ごし、どんな風に算数や数学と関わってきたのでしょうか。
そんなmath channelメンバーの「今まで」と「これから」について、子育て・教育系フリーライターであり、小学生2人を育てる母でもある私、ほんが話を聞いていきながら、算数・数学につながる新しい扉を開いていけたらと思っています。
今回登場していただくのは、福岡県で算数教室を主宰する河野梓さん。中3、小6&小4と3人のお子さんを育てるお母さんでもあるずーさんは、math channelでコンテンツの考案などを担当しています。
神奈川で生まれ育ったずーさんがどうして福岡で算数教室をやっているのか、算数への思いなどをお聞きしました。
河野 梓(ずーさん)
<profile>
考えぬく力を育てる 教えてくれない算数パズル塾Pazoo 主宰。
学年や教科書内容に囚われず、算数の感覚がつかめる問題や試行錯誤を楽しむ問題を作成し、『難しい問題はラッキー』を合言葉に教室を運営している。
その他、「生きる力を育む」をコンセプトにした塾や地域の子育て支援などを通して、日々子どもと戯れている人。
math channelではコンテンツ制作に関与し、算数パズルやクイズのネタを探っている。
早稲田大学商学部卒。中3、小6&小3の子どもを育てる3児の母。
大学卒業後、算数塾を開きたいと思っていたのに、結婚→出産→転勤!
神奈川出身のずーさんが福岡で小学生向けの算数教室を開いている、というのが不思議な感じがしているんです。まずはその経緯などをお聞きできればと思うのですが……もともと先生などをされていたのでしょうか?
大学時代は、塾講師と家庭教師をしていました。
塾講師! 対象は小学生ですか?
はい。中学受験の塾です。それはそれで楽しかったしやりがいもあったのですが、カリキュラムを自分で作ってみたいという想いがあったんです。
まさに、独自の算数塾ですね!
大学卒業後に算数塾を開きたいと思って勉強したり準備していたんですが、卒業してすぐに結婚することになって。
なんと!
それからすぐ子どももできたんです。
まぁ!
さらに、子どもが生まれてから1年と少し経ったときに、夫の転勤で地元の神奈川から福岡に引っ越すことになって。
ええ! なんというか……自分の思い描いていない方向にどんどん進みますね。算数塾を開きたいという思いがあったのに、結婚、出産、引っ越しと。
そうですね(笑)。
20代前半で出産して、知り合いも全然いない場所で初めての子育てですもんね。大変でしたよね、きっと。
それが、引っ越した先が大きい工業地帯だったんです。もちろん地元の人もたくさんいましたが、いろんな会社の転勤族の人がたくさんいたので、「よそ者同士の絆」みたいなのもあって。
それは、心強いですね!
地域の子育てサークルに参加しているうちに自分も役割を任されるようになったり、子育て支援の団体でいろんな活動をさせてもらうようになったんです。
地域のコミュニティのつながりってありがたいですね、本当に。
福岡に引っ越して10年以上活動する中で、今から3年くらい前かな。下の子が小学校入学と同じくらいのタイミングで、お友だちから「子ども向けの算数教室をやってもらえないかな?」と声をかけてもらったんです。
あれ! 戻った!
確かに(笑)。
根っからの長女気質。「できた!」を一緒に喜びたい
塾講師をされていたり算数塾を開きたいと考えたりということは、もともと教育に関心があったのでしょうか?
そうですね。大学は商学部だったんですけど(笑)。
なんと(笑)。
私は、「できた!」「わかった!」っていう喜びがすごく好きなんです。それも自分だけじゃなくて、他の人のサポートをして「できた!」を一緒に喜びたいという思いがあって。
ふむふむ。
どうしてそう思うようになったかを紐解いていくと、子どもの頃いつも近所の子たちと10数人で遊んでいたんですが、その中で私が一番年上だったんですよね。
長女だ!
そうなんです。まぁお山の大将なんですが(笑)。頼まれてもないのに下の子たちにひらがな教えたりしてたみたいで。
ずー先生の誕生ですね!
当時は「あーちゃん」と呼ばれていました(笑)。
あーちゃん先生!
頼まれてないんですけどね(笑)。でも近所のお母さんに「うちの子がひらがなを覚えられたのは、あーちゃんのおかげだからね」って言われたり。
すごい、親としてはめちゃくちゃありがたい存在です! 教えるのが好きだったんですか?
多分、もともと好きだったんだと思います。わかってくれた時に、自分が嬉しいという気持ちになっていたから。
それが、ずーさんの「教えること」の原点なんですね。
出産して子育てをしている中で、自分の子どもに対しても「できた!」を一緒に喜べるのが楽しくて、それってサークルで一緒になる子どもたちに対してもやっぱり同じように思うんですよ。
いいですね!
だから教室でも「できた・わかった瞬間を一緒に味わう」っていうのが私のミッションになってます。
塾を始めるまで10年くらい回りまわった感もありますが、子育ての経験も教室につながっているとなると、必要な道だったのかもしれませんね。
ほんとにそう思います。
算数は「自分で考えること」を楽しむ教科
そもそも、算数塾をやりたい、と思ったのはどうしてですか?
カリキュラムを自分で作りたいという思いがあったのです。
独自のカリキュラムですね!
今あるものが悪いとは思いませんが、ひっ算ができるようになるとかそういうことだけではなく、考えたら「あぁ、分かった!」ってなるような問題に出会ってほしいなと思っているんです。
なるほど。
算数って、他の教科とはだいぶ違うなと思っていて。
例えばどんな点ですか?
理科や社会はそれに精通している「先生」という存在がいて、その先生が色々話してくれることによって新しい知識を得て、「面白いな」「こんな世界があったんだな」って知っていくものだと思うんです。
確かにそうですね。教えてもらうことで、自分の世界が広がる。
でも算数は、自分で考えてこそ面白いんです。
!!
もちろん算数にも用語などの知識はあるのでそこは教えてもらわなければ知りようがありませんが、それよりも、どんな風に考えたら解けるんだろう? どんな考え方があるんだろう? って、自分で考えることを楽しむ教科なんですよね。
それこそが、算数の魅力ですね!
算数では解法を教えてもらうものではなくて、自分で考える時間を確保することが大切かと。
自分で考える時間の確保!
私がやりたいと思っていた算数塾は、勉強を教えるための塾ではなくて、考える時間をサポートする場所なんです。
算数の本来あるべき姿、あってほしい姿が担保されている場ですね!
たまに、「この文章問題、結局足すの? 引くの?」って言う子がいるんです。
それを考えるのが文章題なのに(笑)。
そうなんです。やり方を知りたがる時点で、「自分で考えるのが面白い」っていう算数の楽しさがまだつかめてないんだな、という残念さを覚えるんです。
算数が好きになる「しかけ」はおうちでも簡単にできます
それはやっぱり、学校での算数教育に原因があるのでしょうか?
学校でもその楽しさを教えてくれる先生はいると思います。一番幸せだと思うのは、導入部分を楽しく聞けることですね。
単元ごとの導入ですね。
単元の導入のときに、自分の考え方とは違うやり方があることを知れた子は、その単元の奥深さに気づくきっかけになるかもしれません。
「自分はこう考えるけど、他にはどんな考え方があるんだろう?」ということですか?
そうそう。「Aさんはこう考えました」「Bさんはこう考えました」「君はどう思う?」って、それぞれ自分とは違うこんな考え方があるんだ、というのを吸収できた子は、とても幸せですよね。
確かに、確かに。
いい先生だなと思う先生は、そこをすごく大事にされている印象があります。
先生との出会いに賭ける感じになっちゃいますか!?
教科書にきちんと説明があるのでその点では差はないと思いますが、導入や原理を面白がるか、大事にするかは先生によるかもしれませんね。でも家庭での影響も大きいですよ。
ほう!
まずは、「算数を嫌いにさせない」ことが大事だと思います。
一度嫌いになっちゃうと、苦手意識でどんどん距離が出来ちゃいますもんね!
子どもって本来「これは何だろう」っていう好奇心とか、「やってみたい!」っていう意欲を持っているんですよね。
確かに、それは子どもたちを見ているとそう感じます。
そういうものをつぶさずにいるということと、そこにプラスして、「こんな世界があるんだよ」ってちょっと気づけるようなしかけや種まきをすることで、算数の力は伸びるんじゃないかと思います。
実は、おうちでできる算数のしかけを、ずーさんにmath channelマガジンで連載していただくことになっているんですよね!
そうです。宣伝みたいになってきましたね(笑)。
いい流れになってきました(笑)。
単元ごとにどんなしかけや種まきがあるか、なるべくわかりやすく紹介できればと思っています。
楽しみです!
算数を学ぶことで、世界平和が実現する!?
残念なことに、本当の算数の楽しさを知らない人がたくさんいるんだと感じています。
本当の楽しさ……。
「そろばんをやっていたから計算が速い」というのは、算数を楽しんでいるのとはちょっと違う。
確かに。計算は、処理ですから。
算数って、正解が同じでも道筋がいっぱいあったりしますよね。私、それが好きなんですよ。
ほう!
例えば三角形の面積を求めるとき、「三角形を2つくっつけたら平行四辺形になるよね」から入るのか、「長方形を切ったら、その三角形になるよね」から入るのか、とか。
あー、はいはい。答えは一つだけど、色々なやり方があるっていうやつですね!
「私、こっちのルートから山を登ったよ。あなたはそっちから? 景色が違ったよね!」っていうのが、すごく好き。
見える景色が違ったんですね。素敵だ!
これって、「視点の切り替え」になるんじゃないかなと思うんです。物事を私の視点からだとこう捉えているけど、相手から見ると違うよね、っていう。
確かに! これ、相手を理解したりコミュニケーションをとるうえでとても大切なことですよね!
そうなんです。「あなたはこう考えたんだね」って相手が考えたことを汲んでから対話できるようになったら、多分世界は平和になると思う。
算数を学ぶことで、世界平和が実現するとは……!
だから、いわゆる数字を扱っている部分だけではなく、算数で得た力っていうものは、ものすごく世の中の役に立つんじゃないかなって思っているんです。
相手の視点を考えるトレーニングって、大人になるにつれてリアルでやらないといけなくなりますが、子ども時代に算数で練習できたらいいですよね! 失敗もなく、傷つけたり傷ついたりするわけでもないし。
いい教材だと思います。解けたら楽しいし!
算数をストーリーに乗せて
ずーさんの算数教室、受けてみたいです! どんなカリキュラムになっているのでしょうか?
ちょっと、物語風になってるんです。
え。算数教室なのに、物語?
物語というか…シチュエーションを設定すると言ったらいいのかな。5人のキャラクターがいるんです。例えば一人はすごく食いしん坊なんですよ。
食いしん坊キャラ(笑)。
「しんたろう」って言うんですけど(笑)。しんちゃんは食いしん坊だからできるだけ大きいピザが食べたい、じゃあ「3分の1と4分の1に切れているピザがあったら、しんちゃんはどっちを選べばいいんだろう?」みたいな。
面白い!
他にも工作好きなキャラがいて、工作するために何センチか測らないといけないとか、箱を作るために展開しないといけないとか、色々あります。
アニメの物語を楽しむとか、バトルゲームでキャラを育成するとか、そういう感覚ですね! 子どもたち、楽しんで取り組めそうです。
そうやってストーリーに乗せたものがハマる子もいれば、ぞくぞくする問題があれば大丈夫と言う子もいるんです。
ぞくぞくする問題!
算数や数学の美しさに魅せられるような子ですね。そういう子にとってよだれが出るような問題を作って、「今日の問題」って置いておくと、教室に着いたら勝手に解いてるんです。
もう始まってた(笑)。まさに先ほど話された「自分で考えることを楽しんでいる」という状態ですね!
そういう子は、パズルの方が刺さったりするので、「こういう問題もあるぞ」って私なりに工夫して問題を作っています。
math channelでもコンテンツ制作に携わっていますもんね! ずーさんの算数教室は、これからどのように展開していきますか?
今は週に1回、1クラスだけの運営ですが、一番下の子が小学4年生になって子育ても少し落ち着いてきたので、クラスを増やせたらと思っています。
いいですね! 楽しみにしています!
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算数を通して「考えることを楽しむ」。
それがなんと、世界平和につながるかもなんて、目からウロコです。
でも確かに、こんなにも「正解がない」世の中なので、こういう時こそ考える力があらゆるものの基盤になります。
ただ問題を解いて答えを導き出すだけでなく、その過程にある「考えることを楽しむ」。
算数は、誰かを傷つけることも自分が傷つくこともなくじっくりとそのトレーニングができるから、やっぱり最高かもしれません。
「算数塾を開く」という目標はあったものの、結婚や出産、転勤に子育て……とぐるぐると長い道を歩いてきて、今、その目標が形になってきたずーさんのお話を聞くと、改めて「プロセス」こそ大切にしたいと感じました。
回り道に感じられるかもしれないけど、その回り道をも、プロセスとして大切にする。
それが楽しむ秘訣かもしれません。
算数でも、数学でも、人生でも!
インタビュー中に登場したずーさんの新連載「おうちでできる算数のしかけ(仮)」は、5月9日更新予定です。
どうぞお楽しみに!