中学受験の算数指導歴32年の滝澤です。
2025年の中学受験が、2月にほぼ終わりました。苦しい時を乗り越え,目標に向かって一生懸命戦ったすべての小学6年生のみなさん、そして保護者のみなさん、塾や中学校の先生方、お疲れ様でした。
今年、改めて痛感したことを1つ挙げておきます。
それは、やはり字のきれいな生徒は受かりやすいということです。
算数5割!筑駒逆転合格した生徒の秘密
今年筑駒に受かった生徒の話です。
その生徒は、9月10月頃はなかなか過去問でもよい得点は取れませんでした。筑駒の入試問題のような問題を解いた経験も少なく、また入試問題慣れをしていないために、正解すべき問題とあと回しにすべき問題の選択がなかなかできなかったのです。
そこで彼は、約30年分の過去問を解いて毎回私に送ってくるようになりました。
そこには、「この問題はとばしたのですが合っていますか?」などの質問も多くしており、考え方を書く欄にもていねいに自分が考えた式を連ねていました。
そして、過去問では7割を超えるようになり、本番を迎えたのでした。
結果から言うと、彼は5割程度しか正解できなかったそうです。けれども合格した。
それは、式や考え方をていねいに書いたために加点がされたと考えられるのです。
今からでも遅くない。1問1問を正解することと同じくらい、字をていねいに書くということは武器になるのだということをお伝えしておきます。
2025年の中学受験算数の面白い問題
さて、今年も多くの算数の面白い問題に出会うことができました。今回はその中でも、有名中学の出題の中から面白い問題ベスト3を選んでみたいと思います。
面白い問題とは、私なりの「面白い」の判断基準ですが、
- 小4・小5でもチャレンジできる単元・難易度のもの
- 解法の知識などがなくても試行錯誤をくり返した末に答えを導き出せるもの
- 手間がかかりそうだけど,工夫によって簡単に解けるもの
などが挙げられます。
ではさっそく、第3位から参りましょう。
第3位 渋谷教育学園幕張中
【問題】
2つの数A,Bは3,4,5,6,8,9のいずれかの数であり,異なるものとします。
4けたの数A77Bをアとします。アの各位の数を,左から小さい順に並べかえて作った3けたの数をイとします。アからイを引いた数をウとします。例えば,A=6,B=5とすると,ア=6775,イ=5677であり,ウ=1098です。
次の各問いに答えなさい。
(1) ウとして考えられる最も大きな数を答えなさい。
(2) ウが2けたの数になるAとBの組は何通りありますか。
(3) ウが2けたの数になるAとBの組は何通りありますか。
この問題のおもしろポイント
この問題は解くために使う知識が「4けたのひき算」だけで、低学年でもチャレンジできる問題です。
A、B2つの数も3、4、5、6、8、9の異なる数と決まっており、実は30パターンしかありません。どんどん試していけば答えが出せる問題だと思いいます。チャレンジしてみてください。
では解説です。
(1) A=9,B=3のとき,9773-3779=5994となり、最大になります。
(2) ウが2けたになるためには,AがBおよび7よりも小さく,Bが6である必要があります。
よって,(A,B)=(3,6),(4,6),(5,6)のとき,それぞれ
3776-3677=99,4776-4677=99,5776-5677=99となり,成り立ちます。
よって,3通りです。
(3) ウが3けたになるためには,次の2つの場合が考えられます。
① AがBより小さく,Bが6より小さい場合
このとき,(A,B)=(3,4),(3,5),(4,5)が考えられ,それぞれ
3774-3477=297,3775-3577=198,4775-4557=198となり,成り立ちます。
② AがBより小さく,Bが7より大きい場合
このとき,(A,B)=(8,9)が考えられ,
8779-7789=990となり,成り立ちます。
よって4通りです。
最初はいろいろと数をあてはめてみることが必要です。しかし、5、6回試したあとは、やみくもにあてはめて計算するだけでなく、どういうときに答えが2けたや3けたになるか考えてみるとさらに楽しいと思います。
では次の問題に参りましょう。
第2位 栄東中学東大特待Ⅰ
【問題】
次の会話を読んで問いに答えなさい。
栄くん「今年は九九の年なんだよ!」
東さん「なにそれ?」
栄くん「九九の表の数を全部たすと2025になるって知ってた?」
東さん「えっ?全部たすって、1の段は1+2+3+4+5+6+7+8+9=(ア)
で、2の段は2+4+6+8+10+12+14+16+18=(イ)で、
これを9の段まで全部たしていくってこと?」
栄くん「そう、その全部の段の合計が2025だって気付いた!」
東さん「すごい!だから九九の年なのか!」
栄くん「大発見でしょ!」
東さん「それって、45×45だから2025ってことか。なるほど」
栄くん「なんで45×45が関係あるの?」
東さん「( ウ )」
栄くん「そうか!すごい!」
(1) (ア)、(イ)に入る数を答えなさい。また、東さんになったつもりで(ウ)に入る説明を書きなさい。
東さん「私も九九の表を見て気付いたことがあるんだ」
栄くん「え?なに?」

東さん「この枠の中の数の合計は9×9×9になるんだよ!」
栄くん「おぉ!それもすごい!」
東さん「これが偶然ではなさそうだなって思って理由も考えたんだ」

東さん「影のついた部分の合計は
(1+2+3+4+5+6+7+8)×(エ)=9×9×(オ)でこれが2個あるから9×9×(カ)、
それと9×9の合計だから9×9×9って考えられる」
栄くん「なるほど!たしかに8の段では合計が8×8×8になる!」
東さん「2025って、1×1×1+2×2×2+3×3×3+……+9×9×9を計算した数だっとも言えるんだね!」
栄くん「せっかくだから。1×1×1+2×2×2+3×3×3+……+100×100×100も計算してみようかな」
東くん「うーん、気になるけど、私は部活に行かなきゃだから手紙にして机に置いといてよ」
栄くん「わかった!まかせて!」
(2) (エ)、(オ)、(カ)にあてはまる数を答えなさい。また、栄くんになったつもりで東さんへの手紙を書きなさい。その際、計算結果とその理由を東さんに伝わるように書きなさい。
2025にまつわる予想問題が的中しました!
この問題は、西暦である2025にまつわる問題です。私は毎年西暦に関する予想問題をこのマガジンで記事にしています。この栄東中の問題は的中と言っていいでしょう。こちらもぜひご覧ください。
さてこの問題の素晴らしいところは、単に九九の81個の和が2025であると知っているだけでは正解できないところにあります。
なぜならその理由を説明しなければいけないからです。
さらにただ書くだけではなく、東さんへの手紙として「計算結果とその理由を東さんに伝わるように書きなさい。」とまで書いてあります。
入試問題の答案は中学の先生への手紙なのだというメッセージが受け取れます。
「伝わるように」書くためには当然、字もていねいでなくてはなりません。ただ知っている、ただ答えが合っているだけでは正解にならないところが素晴らしいのです。
栄東中学の東大特待入試は毎年このように2人以上の会話形式でそれぞれの登場人物が問題と向き合い、自分なりの考え方を言葉にしていく過程が出題されます。
私はマスチャンネルで、「おもしろ中学受験算数講座」「中受良問講座」という2つの講座を担当していますが、そのどちらも、「考えたことをすべて書きましょう」と伝えています。
中学受験用の学習をしていると、勉強の目的が解答の数字を求めることになってしまいがちですが、解答を導き出すまでの過程こそが、勉強の本来の目的です。
もしご興味がおありならば、おもしろ中学受験算数講座についてはこちらをご覧ください。


解答例
こちらの解答は以下のようになります。これはあくまでも解答例です。自分ならどう書くか、実際に自分で考えて答えを書いてみていただきたいです。
(1) ア45 イ90 ウ 1の段の合計は1×45、2の段の合計は2×45、3の段の合計は……、9の段の合計は9×45だから、これらをすべてたすと、(1+2+3+4+5+6+7+8+9)×45となって、45×45になるんだよ
(2) エ9 オ4 カ8
合計 25502500
理由 九九の表の合計は(1+2+3+4+5+6+7+8+9)×(1+2+3+4+5+6+7+8+9)でも計算できるし、
1×1×1+2×2×2+……+8×8×8+9×9×9でも計算できる計算できるから、
1×1×1+2×2×2+……+8×8×8+9×9×9は1から9までの和を2回かけたものだとわかるよね。だから
1×1×1+2×2×2+……99×99×99+100×100×100は、1から100までの和を2回かけたものになるんだよ。
1から100までの和は、(1+100)×100÷2=5050 だから、5050×5050=25502500になるよ。
さて、今年の栄えある第1位はこちらです。
第1位 灘中
【問題】
右の図は、1×1から9×9の81個の数を表にしたものです。太線の長方形の中に書かれたすべての数の和は315です。この表の罫線で囲まれた長方形は全部で2025個ありますが、そのうち、中に書かれたすべての数の和が315であるものは太線の長方形を含めて全部で( )個あります。ただし、正方形は長方形に含まれるとします。

普通なら問題にすることをあえて問題にしない
この問題も九九の表の問題です。さらに2025を題材にした問題も隠れています。
さらっと文中に「この表の罫線で囲まれた長方形は全部で2025個ありますが」などと書いてありますね。
普通ならばここを問題にしてもいいくらいですよね。
「この図になぜ長方形が2025個あることがわかる」かを簡単に解説すると、この表にはたて線が10本、横線が10本ありますね。長方形というのは、たて線2本、横線2本の辺からできているので、たて線10本の中から2本選び、横線も10本の中から2本選べば長方形が全部で何個あるかが求められるのです。たて線の選び方も横線の選び方もそれぞれ45通りですから、45×45で2025個の長方形があるという訳です。
でもこれらの問題は出題せず、さらに面白い問題を出題するのが灘中です。
では解説です。
まず、太線で囲まれている6つの数字をよく見てみましょう。これらをそれぞれ九九の式で表し、
それらをたしたと考えると
6×7+6×8+7×7+7×8+8×7+8×8
となりますね。さらにこの式をまとめると
(6+7+8)×(7+8)=21×15=315
となるのです。
つまり、315を2つの数の積にし、それらの2つの数がどちらも1から9まで何個かの(1つでもOK)連続する整数の和になればよいということですね。
7×45→7×(1+2+3+4+5+6+7+8+9)、(3+4)×(1+2+3+4+5+6+7+8+9)
9×35→9×(5+6+7+8+9)、9×(2+3+4+5+6+7+8)、(4+5)×(5+6+7+8+9)、
(4+5)×(2+3+4+5+6+7+8)、(2+3+4)×(5+6+7+8+9)、(2+3+4)×(2+3+4+5+6+7+8)
15×21→(1+2+3+4+5)×(6+7+8)、(4+5+6)×(6+7+8)、(7+8)×(6+7+8)、
(1+2+3+4+5)×(1+2+3+4+5+6)、(4+5+6)×(1+2+3+4+5+6)、(7+8)×(1+2+3+4+5+6)
ここまでに14通りあり、さらにたてと横を入れ替えたものがありますから、
14×2=28通りとなります。
こうやって見ると、1けたの数のたし算とかけ算の知識だけで、頑張れば解くことができる問題です。
しかも題材は九九の表です。確かに難しい問題ではありますが挑戦してみてほしい一題です。
簡単な題材でも深く考えられる問題にチャレンジしてみよう
いかがだったでしょうか。
1から9までの数、ひき算、九九。これらを利用してもていねいに考えることができる良問が今年は出題されました。特に今年は2025年だったので、九九が熱かった。
どの問題でも、正解できることはもちろんですが、なぜそうなるのか、どう考えれば簡単に解けるのかなど、過程もとても大切な問題です。
算数の問題演習をすると、正解したくて(早く終わらせたくて?)、大急ぎで問題を解く生徒も少なくありませんが、たまにはじっくり納得がいくまで考えて、ゆっくりていねいに自分が考えていることを言葉にして問題を解くという時間も作ってみてはいかがでしょうか。
著者プロフィール

タッキー先生(滝澤 幹 たきざわ かん)
中学受験算数ナビゲーター
御三家筑駒中学受験専門塾にて指導歴30年。「算数の楽しさは正解だけではない」「すべての小学生に算数の難問を解く楽しさを知ってほしい」と思い、math channnelに参加。算数表現力ゼミを主催。共著書に『親子で楽しむ!中学受験算数』(平凡社刊)がある。
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■タッキー先生が執筆に携わった本

中学受験算数で出てくる「つるかめ算や旅人算」などの特殊算について、線や図、表を使って視覚的にわかる本!
math channelマガジン編集長のぬまちゃん、株式会社math channel代表の明日希先生、そして中学受験算数ナビゲーターの滝澤先生3人による共著です。
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ビジネスや生活から、エンタメや入試問題まで、中学生から読める、身近で、おもしろくて、役に立つ、数学の話をまとめた一冊です。
「算数・数学は面白いもの・楽しいもの」と思ってもらいたいという思いから、math channelマガジン編集部メンバーがアイデアを出し合いながら書きました。
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