「フェルミ推定」ってご存じでしょうか?
フェルミ推定は、math channel magazine記事や書籍などでも様々に紹介されていますので、ご存知の方も多いことでしょう。面白い問題がたくさんありますので、皆さん興味を持ってチャレンジしているかもしれませんね。
フェルミ推定は、イタリア出身の天才物理学者であるエンリコ・フェルミ(1901年9月-1954年11月)にちなんで名付けられた推定方法です。フェルミは、この方法がとても好きだったとのことです。
この「答えがわからないけれども情報や知識を集めて論理的に計算する」という“フェルミ推定”、実際の生活でどんな時に役立つのでしょうか。
何に使えるの?
実は、フェルミ推定は、いろんな場面で役立ちます。
例えば、地震や津波などの天災が発生した場合、被害にあった人数を早急に見積もり、食料や生活物資、医療などの支援を考える必要があります。そのような状況で、フェルミ推定が有効に活用されます。
以下のような状況でも役立ちます。
- 文化祭でのタコ焼きの販売数の見積もり(具材のタコが足りなくなっても余っても困ります!)
- 新しく店(レストランやコンビニなど)を出す場合の収益の予測
- 交通機関に事故が発生した場合の影響者数の見積もり
- 大規模なイベント(ライブや公園でのお花見など)の参加者数の見積もり(仮設トイレが必要です)
世の中には、正確な値が必要ではなく、概数を知りたい場合や、正確な値が不明でも大まかな値を導きたい場合が頻繁にあります。フェルミ推定はそのような場合に役立つ方法の一つです。
特にビジネス社会では、必要なデータが手に入らない、というのは往々にして起こりますので、その時には問題解決のためのロジックや提案力が必須です。
従って、コンサルティング会社などには、入社試験でフェルミ推定を使うような出題をする会社もあります。
具体的な推定方法を紹介
では、例題を通して、フェルミ推定の方法を説明します。
基本的には、知識・常識を元に、問題を小さい要素に分け、計算式を作り、仮定を置いて値を求めます。
キーワードは以下の3つです。
- 簡略化する
- 全体から部分を取り出して考える
- 部分から全体を考える
解法その①:簡略化する
例題①
日本中の人が皆横になって寝そべるとしたらどのくらいの広さが必要でしょうか。
この問題は、災害時の避難所の収容可能人員などを考える際に必要そうですね。
体の大きさには個人差があり、寝相も人により違いがありますが、ここでは思い切って、人間が寝そべるには 幅1 m、長さ 2 m の広さが必要だと仮定しましょう。日本の人口は約1.2 億人ですから、必要な広さは
1 m × 2 m × 1.2 億 = 2.4 億 ( m2 ) = 240 ( km2 )
になります。このような問題では、簡略化して考えることが効果的です。
なお、災害時の避難所などでの収容人数を考える場合には、さらに余裕を持たせる必要があります。
解法その②:全体から部分を取り出して考える
例題②
東京都に中学生は何人いますか。ただし、東京都の人口を1300万人とします。
男女別に年齢ごとの人口を表したグラフを人口ピラミッドといいます。2020年の日本の人口ピラミッドは下図のようになります。
人口ピラミッドは柱状ではないのですが、ここでは大胆に、0才から85才まで各年齢層が均等に分布していると仮定してみましょう。すると、中学生(13才~15才)は、85分の3だけいることになり、
1300万人×$\frac{3}{85}$= 46万人
と計算できます。
少子化が進んでいることや、東京にはビジネスマンが多いことを考慮すると40万人くらいかな、と推定できます。実際には約31万人(平成27年度学校基本調査)ですから、この推定値から大きくは外れていないことが分かります。
このように、全体から一部を取り出して考えることも有効です。
解法その③:部分から全体を考える
例題③
お茶碗1杯のご飯の米粒は何粒でしょうか。
お茶碗1杯のご飯の米粒の数なんて数える気がしませんが、一つまみなら数えられそうです。
- ご飯を一つまみ取り、重さを計る
- その一つまみの米粒の数を数える
- お茶碗1杯の米粒の重さを計る
ことで推定することができそうです。
つまり、
お茶碗1杯の米粒の数 = 一つまみの米粒の数 ×( お茶碗1杯の米粒の重さ ÷ 一つまみの重さ )
を計算することで、お茶碗1杯の米粒の数が求められます。
実際に、この方法でできるか確かめてみました。
まず、ご飯を一つまみ取り、重さを計ってみると、 6.4g となりました。
次に、その一つまみの米粒を数えました。145 粒ありました。楊枝を使い 10 粒ずつ分けましたが、思ったより面倒でした…。
最後に、お茶碗1杯のご飯の重さを計ると 140gになりました。
これらの数値を使って計算すると
145 ×( 140 ÷ 6.4 )= 約 3172 粒
となります。
農林水産省のWebサイト※2を見ると、約3250粒となっていますから、この方法でも、良い値が出せました。フェルミ推定の力はすごいですね。
この方法は、部分から全体を考えると有効な場合の例です。例題②とは逆の考え方となります。
以前、「イチョウの木に、銀杏の実は何個付くでしょうか」という問題を出したところ、イチョウの枝を取り、その枝についている実の数を数え、枝の体積を求め、木全体の体積を推定し、比を取って求めた人がいました。これも部分から全体を考える例です。皆さんも、頭髪の本数や犬の毛の本数などにチャレンジしてはいかがですか。
パズルとして楽しむならこうしよう!
フェルミ推定の問題はいろいろ作って楽しむことができます。
例えば、「私が一生の間に眠る時間はどのくらいでしょうか」という問題を考えてみましょう。
「一生」を「1日」、「1週間」、「1ヶ月」、「1年」というように単位を変えることができます。
また、「私」の部分を「家族」、「日本中の人」、「世界中の人」などに変えることもできます。
さらに、「眠る時間」という表現も、
(挨拶関連)「さよならを言う回数」、「おはようございますと言う回数」
(身体関連)「呼吸する回数」「鼓動回数」「トイレに行く回数」
などに置き換え、広げることができます。問題の一部をいろいろと変えることで、たくさんの問題ができるのです。
このようにして問題を作り、解法1,2,3を適用して、答えを考えて楽しんでみてください。
正解がある問題にフェルミ推定を行うことで、論理的思考力を磨ける
実際に役立てたいなら、正解がある問題に取り組み論理的思考力を磨くことがお薦めです。問題としては、以下のようなものが考えられます。
- 給与所得者の生涯賃金は何円でしょうか
- 2023年度大学入学共通テストの志願者は何人だったでしょうか
- 人体の表面積は何㎡でしょうか
正解を知るための統計データはたくさん存在していて、簡単に検索できます。
例えば、政府統計の総合窓口(e-Stat)(https://www.e-stat.go.jp/)は、非常に内容が充実したポータルサイトです。
これらを利用して練習すると、自分の論理が正しいかどうかを確認することができます。
チャレンジしてみてください。
終わりに
フェルミ推定を実生活で効果的に活用するためには、算数や数学の知識(具体的には加減乗除、指数法則、有効桁数の考え方に基づく概算、単位と換算、初歩的な確率など)が必要です。
また、社会や理科に関わるいろいろな常識も欠かせません。
これらについては、別の機会にお話ししたいと思います。
math channel代表の横山もフェルミ推定を子供向けに語った回があります。もしよろしければこちらもどうぞ。
参考文献
※1 熊本県立大学 総合管理学部COC事業プロジェクトチーム編[2018]『地方創生への挑戦』中央経済社、203頁~207頁(本稿は上記を元に作成しました。)
※2 『子どもから、「茶碗1杯のごはんはお米何粒?また、稲だと何株?」と質問されました。目安を教えてください。』https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1806/03.html (2023年3月28日閲覧)