あらためまして。自己紹介をしたいと思います。
難関中学受験・算数指導歴30年、中学受験算数ナビゲーターの滝澤と申します。
ふだんはZ会エクタス栄光ゼミナールという学習塾で算数の指導をしています。6年生の指導としては、通常授業の教室を2教室、さらに志望校別コースの筑駒を担当しています。
筑駒合格者の共通点
入試シーズンも終わり、様々な生徒とあらためていろいろな話をしていくことが多くあります。そのなかで、特に筑駒の合格者に共通する話があります。それは、
「睡眠時間は8時間以上とっていた」
という話です。
これを聞くと、それは「賢いから短時間でどんな問題でも正解できてしまうのだろう」と思われる方もいるかもしれません。
しかし話をしてくれた生徒の中には12月の大手塾の模擬試験で合格可能性が20%だった生徒もいます。つまり、正解できない問題はあるが、しっかり睡眠する時間は確保しているということです。
改めて感じるのは、「問題に正解する力」と「合格する力」は違うということです。
合格力とは?
もちろん4科目の合計点が合格最低点を上回らなければ合格することはできませんが、逆に言えば、合格最低点を越えさすれば正解できない問題があっても合格できるわけです。
つまり、正答率の低い難しすぎる問題は合否には関係ない。そして難しい問題ほど学習する時間がかかる。
これを見極めてふだんの学習の段階から選別することができれば、「できない問題があっても、睡眠時間はしっかり確保できて、なおかつ合格できる」わけです。
これが私の考える合格力です。
算数の特殊性
算数という科目は、他の科目にくらべて不正解であることがわかりやすい科目です。
一部理由を説明したり、作図をしたりする問題もありますが、たいていの問題は正解が1つの数字で表されているために、違う数字は不正解にされてしまいます。
しかし、そこまで子どもが何を考えたのか、どれだけがんばったのかなどは残されていないことも多く、全く評価されないこともあります。
ですから「できない→苦手→きらい」になってしまうことも多い。
だからといって「この問題はできなくていいよ」と言われても、自力で解けなければ気が済まないという子どもがいるかもしれません。
また、「できなくていいなら、全くやらなくていいや」とあきらめてしまう子どももいるかもしれません。
私は今回のこの連載を通して、様々な有名中学の問題から厳選して、
「自力で解けなくてもいいけれども、解法にいたる発想が楽しい問題」
を紹介していきたいと考えています。
「よく、そんなこと思いつくなあ!」ということもありますけれども、それも含めて楽しみながら鑑賞していただければと思います。
この連載を通じて伝えたいこと
これを読んでいただいている方は小学生の保護者の方が多いと思われます。
もし、「算数の問題は解けなければいけない」と思われている方には、子どもができない問題があるときに、「解けたらすごいし、別に解けなくても、考え方や発想を楽しんでくれればいいな」というくらいに、算数に対する認識を少しでも変えていただくことができたらいいなと考えています。
そして、「解けない問題はあるけれども、算数は好き、考えたあとに解説読むのが面白い」という子どもが少しでも増えてくれたらいいなと考えています。
そして好きなことは継続しやすく、継続できるということはそのうちできるようになるかもしれない期待が十分にあるということです。
成果も大事かもしれませんが、私は子どもには自分に対して期待を持っていてもらいたいと思っています。
ではそろそろ本題に入りましょう。
第1回のテーマは「問題文のヒントを使いつくそう!」
今回ご紹介するのは、私の母校である開成中学の問題です。
問題です。
十野くんは1円硬貨と5円硬貨と10円硬貨をそれぞれたくさん持っています。また、五十川くんは1円硬貨と5円硬貨と10円硬貨と50円硬貨を、百山くんは1円硬貨と5円硬貨と10円硬貨と50円硬貨と100円硬貨を、それぞれたくさん持っています。
たとえば、十野くんが20円を支払うとき、硬貨の組み合わせは次の9通りです。
このとき、10円硬貨の枚数に着目すると、
1+3+5=9=3×3
となっていることがわかります。
(1) 十野くんが70円を支払うとき、硬貨の組み合わせは何通りありますか。また、五十川くんが70円を支払うとき、硬貨の組み合わせは何通りありますか。
(2) 百山くんが170円を支払うとき、硬貨の組み合わせは何通りありますか。
(3) ある金額を百山くんが支払うとき、硬貨の組み合わせは 875 通りあります。その金額を五十川くんが支払うとき、硬貨の組み合わせは何通りありますか。また、そのような金額のうち、最も小さいものと最も大きいものを答えなさい。
(2011 開成)
大切なのは「予想」と「試行錯誤」
この手の問題は、まず予想をたてて試行錯誤をすることが大事です。今回の場合、「20円ならば、3×3通り」なんだから、「10円ならどうなるだろう?」、「30円ならどうなるだろう?」と考えて試してみるということです。
すると、10円なら4通り(2×2)、30円なら16通り(4×4)ということがわかりますね。
解説
(1)十野くんが70円を支払うときは、10円硬貨の枚数が7枚から0枚までの8通りなので8×8=64通り
五十川くんが70円を支払うときは、50円硬貨が0枚のときは残り70円を10円硬貨で支払いますから、十野くんと同じで64通り、50円硬貨が1枚のときは、十野くんが20円を支払うときと同じなので、3×3=9通り よって計73通り
となるわけです。ここまでは合格者ならば解けてほしい問題です。
(2)は百山くんの支払い方ですが、100円玉を使わない場合と使う場合に場合分けします。
ちょっとチャレンジしてみましょう。
というわけで来月までに考えてみてください。全部で15分~20分くらい考えれば十分です。ここからは決して解けなければいけない問題ではありませんから楽しんでいただければと思います。
そもそもこのような「何通りですか?」と聞かれるような場合の数は、「正解しなくても合格力をつけられる」問題なのです。そのあたりも次回お伝えできればと思います。
それではまた来月お会いしましょう。中学受験算数ナビゲーターの滝澤でした。
(文責:滝澤 幹)