こんにちは、math channelマガジンデスクのほんです。
math channelマガジンを運営するmath channelは、10代から60代まで、約40名のスタッフで運営しています。
彼ら彼女らは、どんな子ども時代を過ごし、どんな風に算数や数学と関わってきたのでしょうか。
そんなmath channelメンバーの「今まで」と「これから」について、子育て・教育系フリーライターであり、小学生2人を育てる母でもある私、ほんが話を聞いていきながら、算数・数学につながる新しい扉を開いていけたらと思っています。
今回登場していただくのは、早稲田大学基幹理工学部在籍中の宇都木一輝。math channelでは「うっつん」の愛称で、ワークショップ講師などを務めています。
それでは、うっつんの「今まで」と「これから」の物語を、どうぞお楽しみください。
宇都木一輝
<profile>
math channelオンライン習い事「算数パズル教室」チームリーダー。講師およびカリキュラム制作、クイズ制作と幅広く担当。小中学生向け受験指導塾でも講師を務め、幅広い年齢層に様々な切り口で算数、数学を届けている。算数・数学の問題やルービックキューブなどのパズルを解くことが好き。体を動かすことも好きで、テニスやサーフィンが趣味。この春から早稲田大学理工学術院大学院基幹理工学研究科材料科学専攻。
「人の役に立ちたい」という思いが、扉を開く
現在はmath channelの講座やワークショップで講師を務めるうっつんですが、小さい頃は、どんな子どもでしたか?
すごい泣き虫で、何もできないダメ人間だったんです。
え! それは意外です!
嫌なことがあったり思い通りにいかないと、すぐ泣いたり物にあたったりしていたんで、先生からは問題児だと思われていたと思います。
全然、そんな風に見えないのですが……。
あと、運動も全然できなくて走るのも遅かったから、友だちと鬼ごっこしてるのに、鬼になった瞬間に「捕まえられない!」ってあきらめちゃう。そんな子どもでした。
やっぱり、今のうっつんからは考えられません。
一体何があったら、そんなに大きく変わったのでしょうか……?
小学4年くらいからかな、自分は何もできないダメな人間だから、せめて『人の役に立つことをしよう』と思ったんです。それで、クラスの代表委員なんかをやるようになりました。
小4でその発想は、すごい!
親に言われたとかでもなく、自分でそう思ったのでしょうか?
なんとなく、自分でそう思うようになったんですよね。
小学校から中学校へと上がっていくうちに、その考えが固まってきました。
人の役に立つために「みんながやりたがらないことをやろう」と思い、クラス委員や代表委員を務めることになったうっつん。
その経験が、うっつんの世界をひろげていきます。
いろんな人と関わって、いろんな経験ができました。
特に、政治とかの難しい話や、自分の考えを話せる友だちと出会えたのは大きかったですね。
立場が変わると出会いが広がりますよね。子どもでも。
それまでずっと、「自分は何もできない人間だ」と卑屈に思っていたんですが、なんでも話せる友だちと話しているうちに、自分の価値観が変わっていったんです。
そういう人に出会えるというのは、本当に幸運なことですよね!
”役に立ちたい”という思いから自ら扉を開いたことで、道が広がっていったんですね。
その友だちと出会っていなかったら、今でも卑屈なままだったかもしれません。
いい出会いだ……。
あと、委員って人前に立つ機会も多かったので、だんだん人の前に出て話したりするのにも慣れていきました。
それが今の講師の仕事につながっていると思います。
講師・うっつんの原点は、そこにあったんですね!
知らないことを知らないままにするのが、嫌だ
こうやってmath channelで講師を務めるくらいですから、うっつんは子どものころから算数は得意だったのでしょうか?
小さいころから積み木とかパズルで遊ぶのが好きでした。カードゲームも好きで、一人で遊んでいる子で。
工作や機械いじりも好きでしたね。
それで、気づいたら算数が得意になっていた?
得意まではいかないですが、他のことよりは興味が持てていたし、実際に小学5、6年で通信講座を受けると「算数はできる」という感じで楽しかったです。
遊んでいるうちに算数ができる子になるなんて、親の立場からするとかなり理想ですよ……。
あと、小5くらいのときに父親が唐突に難しい算数の問題集を買ってきたんですよ。
あまり深い意味はなく、「これやってみたら?」みたいな感じで。
唐突に難しい算数の問題集を買ってくるお父さん(笑)
父も理系なんです(笑)。
なるほど! おちゃめなパパさん(笑)。
その問題集を解いていたんですか?
そんなにまじめに解いていたわけじゃないんですけどね。
受験勉強じゃないから期限はなかったから、毎日やるわけでもなかったんですが、やりたくなったらまとめて何時間も取り組んだりしていました。
ハマったときは一日中、ご飯も食べないで計算したり。
算数の問題集にハマる小学生! これまた理想ですよ……。
(笑)。
知らないことがわからないまま、というのが嫌だったんです。たぶんすごく負けず嫌いで。
今思うと、泣き虫だったのは負けず嫌いだったからというのもあったんだと思います。
知らないことを知らないままにするのではなく、知りたい。
それは誰もが持つ「知的好奇心」です。
他者に無理やりやらされるのではなく、自分の「知りたい」を追求していくことが、うっつんの知的好奇心をますます育てていったのかもしれません。
目標は、周りの人も楽しい世界を作ること
今は、早稲田大学の基幹理工学部、電子物理システム学科に所属されていますが、どうしてこの道を選んだのでしょうか?
数学が好きだったので数学系に行くか悩んだのですが、知らないこともう少し知ってみようと思って物理のなかでも半導体を主に学ぶことにしました。
半導体!
半導体って、知れば知るほど面白いと思えるところがたくさんあるんです。
半導体がおもしろい! そう言えるのがかっこいいです。
どんなところがおもしろいのでしょうか?
予想しないことを起こせる、というところかな。
あとは、半導体を組み立てるのは、もともと好きだった工作系に近いので、それも楽しいです。
算数が好きで理系に進んで、今は電子物理システムで半導体を学ぶ。
今自分が進んでいる道が、これまで自分が歩んできた道と繋がっている感じがしますね。
半導体というとものすごく実用的なので、就職にすごく有利なのではというイメージがあります。
今、欲しがられる人材だと言われています。
でも、面白いことをやりたい、自分が納得できるように進みたいなっていうのがあって……。
半導体のことをやっているから半導体の道に就職、というわけではなくて?
私が目標としているのは、「周りの人も楽しい世界を作りたい」ということなんです。
自分が楽しい生活を送れるのはもちろん大事なんですけど、自分だけじゃなくて周りの人も楽しい世界を作りたい、って。
それって、小学生のころ思った「人の役に立ちたい」っていうのとつながっていますね!
「周りの人も楽しい世界を作る」っていう目標のために自分に何ができるかと考えたら、自分は、「知ること」が楽しかったから、新しいことを知って面白いと思ってもらいたい、というのが根底にあって。
新しいことを、知る。
じゃあ、新しいことを知ってもらうために自分ができることを考えたとき、そこに「算数」「数学」の存在があったんです。
なるほど! それが、今のmath channelでの活動につながるんですね!
それと、math channelは、算数、数学の「体験型ワークショップ」というところにも惹かれたんです。
算数とか数学って、「考えて紙の上で解く」っていうイメージが強くて、「体験」っていうワードと結びつかないと思いませんか?
確かに、「算数を体験する」というのを楽しめる場所って、なかなかありませんよね。
塾とかで算数、数学を教えるとなると一方的に伝えるという形になりがちですが、math channelでは体験を通して面白いと思ってもらえるので、それが自分にとってもすごく面白いんです。
自分が楽しいだけではなく、周りの人の役に立ちたい、というのと、自分が体験した「知りたい」を追求していく楽しさを、他に人にも体験してもらいたいという二つの思いが、うっつんの原点にあるんですね。
できれば関わる人全員、私といて楽しくないなって思わせたくないんです。だから、そのために役に立ちたいですね。これからも。
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親は、我が子が羽ばたけるように翼を授けてあげなければならない、と思いがちです。
でも、もしかすると子どもというものは、親が授けなくても自ら翼を持っているのかもしれません。
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うっつんが持っていたのは、「人の役に立ちたい」という翼。
小4のときに、誰に言われたからでもなく自ら芽生えたその翼は、少しずつ育ちながらうっつんにいろんな人との出会いを授けてくれました。
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もしかすると、親としてできる最大の手助けは、子どもが持つ翼をもいでしまわないこと、なのかもしれません。
我が子にはどんな翼があるのか、それは親としてとても気になるし心配にもなるけど、子ども自身が自ら持っている翼を、ただ見守ること。
子どもは、自らの翼できっと羽ばたいていけるのだから。
うっつんの「今まで」と「これから」の話は、親子の関係で大切なそんなことを、教えてくれた気がしました。