こんにちは、みうらです。
今回ご紹介する「偽金貨問題」は、古くから多くの人に親しまれてきたクラシックな頭脳パズルです。
一見すると単純な設定に見えますが、その中には論理的思考や創造力を駆使する楽しさが詰まっています。
天秤を使って効率よく偽物を見つけ出すプロセスは、思考の柔軟性と深さが試される点で、多くの人々を魅了してきました。
この問題の魅力は、さまざまなバリエーションが存在する点にもあります。
状況やルールを少し変えるだけで解法が大きく異なり、新たな挑戦を楽しむことができます。また、単なる娯楽の枠を超え、数学や情報理論といった学問分野とも深く結びついています。
では、この「偽金貨問題」とはどのようなものなのでしょうか?
本稿は全2回の構成でお届けします。
第1回の今回は、問題の背景や基本的な解法を中心に取り上げます。
そして第2回では、今回の内容を基に少し応用的で一般的な議論へと進みます。ぜひお楽しみいただきながら、解答に挑戦してみてください。
偽金貨を作る理由は?
まず、この問題の背景をお話しします。
金に混ぜ物をする際によく使われる金属に、銀や銅があります。これらの金属は金と比べて安価であり、金に混ぜることで本物よりも安く偽金貨を作ることができます。
見た目は本物と変わらないため、まるで本物のように見せかけて流通させることができますが、実際には本物ではないので、他の人をだましてしまうことになります。
ただし、金とこれらの金属には「比重」という大きな違いがあります。
比重とは、同じ体積の物質の重さを水の重さと比べて、何倍あるかを示す指標です。
つまり、比重が1より大きいと、その物質は水よりも重いということです。
金は非常に重く、同じ体積の水と比べて約19.32倍の重さがあり、比重は19.32です。一方、銀の比重は10.49、銅の比重は8.96です。
そのため、銀や銅を混ぜた偽金貨は見た目が同じでも、実際には軽くなってしまいます。
この比重の違いを利用して、「天秤」を使って偽金貨を見分けるパズルが生まれたのです。
さて、パズルでは、必ずしも偽金貨が「軽い」とは限りません。時には、銀や銅のような軽い金属ではなく、より重い金属が混ざっていることもあります。この記事でも「重い」偽金貨で説明しています。
偽金貨が軽いか重いかに関係なく、天秤を使って偽物を見つけるロジックは変わりません。どうぞこのまま読み進めてください。

それでは、早速問題に取り組んでみましょう。
問題
9枚の金貨があり、その中に1枚だけ偽物の金貨があります。偽物は本物の金貨よりも重いです。天秤を使って、どの金貨が偽物か見つけてください。
素朴な解答1
1枚の金貨を選び、残りの8枚の金貨と順番に天秤で比べます。
もし比較した中で重い金貨が見つかれば、それが偽金貨です。7回の測定ですべての金貨が釣り合った場合は、残っている1枚が偽金貨となります。
つまり、最悪の場合でも7回の測定で偽金貨を見つけることができます。
素朴な解答2
9枚の金貨を2枚ずつペアに分けます。すると、4ペアと余りの1枚が残ります。
各ペア同士で4回測定を行い、重さが釣り合わないペアがあれば、その中に重い偽金貨が含まれているとわかります。もし4回の測定で全てのペアが釣り合った場合、余りの1枚が偽金貨だと判明します。
最悪の場合でも4回の測定で偽金貨を見つけることができます。解答1より改善出来ました!
でも、これら2つの方法では、1枚ずつ測定するので手間がかかり、効率が良くない気もします。
もっと少ない回数で偽物を特定できる方法はないでしょうか…。
実は、たったの2回で発見できます。その方法とは。
考え方
このようなパズル問題を解くときのコツは、まず、少ない枚数で試してみることです。
最も少ないケースは2枚です。この場合は簡単です。
2枚の金貨を天秤の両側に1枚ずつ置き、重い方が偽物です。
つまり、金貨が2枚なら、天秤を1回使えば偽物を見つけることができます。
では、3枚の場合はどうでしょうか?「2枚では1回だったから、3枚なら2回測ればいい」と考えたあなた、それは間違いです!
実は、3枚の場合でも天秤を1回使うだけで偽物を見つけられます。その手順は次の通りです。
【金貨3枚の手順】
それぞれの金貨に①、②、③と番号を付けます。そして、2枚の金貨を選んで天秤にかけます。
[場合1] ① の方に傾けば、① が偽物です。
[場合2] ② の方に傾けば、② が偽物です。
[場合3] 釣り合えば、③ が偽物です。
つまり、金貨が3枚の場合も、天秤を1回使えば偽物を見つけることができるのです。

9枚の場合は?
これらを踏まえて、最初に示した9枚の場合を考えてみましょう。3枚の場合の手順を活用するのがコツです。
【金貨9枚の手順】
金貨を3枚ずつ、3つのグループに分け、各グループにG①、G②、G③と番号を付けます。
- 最初の測定 2つのグループ、例えばG①、G②を選んで天秤にかけます。
[場合1] G①のグループが重ければ、G①の中に偽物があります。
[場合2] G②のグループが重ければ、G②の中に偽物があります。
[場合3] G①とG②が釣り合えば、G③のグループに偽物があります。
- 2回目の測定
[場合1~3]に対応したグループはともに金貨3枚ですから、【金貨3枚の手順】が適用できます。 つまり、金貨が9枚の場合、天秤の使用回数は2回です。

同様にして、27枚(3×3×3枚)の場合は3回、81枚(3×3×3×3枚)の場合は4回となります。
参考に、回数を表にまとめました。

今回のポイント
今回のポイントは、金貨の枚数を 3分の1ずつに分割 しながら天秤にかける戦略です。この方法を使うことで、最小の測定回数で偽物を特定できます。
それは、天秤を1回使うごとに「軽い」「重い」「等しい」という3つの結果を得られるため、金貨を均等に3つのグループに分けることで最大限の情報を引き出せるからです。
たとえば、金貨が3枚なら1回の測定、9枚なら2回、27枚なら3回で特定可能です。
この仕組みは、金貨の枚数が 3k 枚(3をk回掛けた形)である場合に成立します。
次回は、金貨の枚数が 3k 枚ではない場合について考えます。
その場合にはどのような工夫が必要なのか、一緒に解き明かしていきましょう。
なお、天秤の模型は、おもちゃや工作キット、知育玩具としてさまざまな種類が販売されています。実際に組み立てて試してみると、とても面白い体験ができます。偽金貨を見つける問題だけでなく、メジリアクの分銅問題というパズルにも使えます。
この問題では、少ない数の分銅を使って、さまざまな重さを正確に測定する方法を考えます。天秤を使ってこれらの問題を解くことで、論理的思考や効率的な解決方法を学ぶことができます。ぜひお試しください。
著者プロフィール 数学博識王みうら(三浦章)

みうら(三浦 章) math channelマガジン数学博識王
国立市在住。東京工業大学大学院修士課程を修了後、通信キャリヤで30年ほど通信サービスの研究実用化に従事。15年ほど前に、大学教員に転身。情報システム、数学、問題解決フレームワーク等を教えてきました。5年ほど前から地元公民館で月2回程度市民向け数学教室も開催しています。近頃は数学的背景のあるパズルに興味があり、その内容の発信にも関心があります。博士号(工学)、高校教員免許(数学)あり。
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