math channelでは、2021年度、ときがわ町立都幾川中学校にて各学期に1回、中学2年生を対象とした数学の特別講座を実施させていただいています。
都幾川中学校長の野口千津子先生に、math channel代表でmath channelマガジン編集長の横山明日希が聞き手となり、「これからの数学とICT教育」についてインタビューしました。
教科書以外から学ぶ数学で「授業の面白さ」を知ってほしい
――math channelのことを知っていただいた経緯、一緒に取り組もうと思った経緯を教えてください。
野口校長: 単刀直入に、“数学のお兄さん”を紹介していただいたんです。
紹介していただいた後、すぐに数学のお兄さんの書籍を読ませていただいて、子どもたちにもこういう刺激を与えられたらいいな、と思い受け入れようと思いました。
私自身、「都幾川中学校はいろいろことを受け入れる学校」にしたいという思いもありました。
――これまでに「数学」を切り口に外部講師を呼ばれたことはありますか?
野口校長:今回のように子どもたちに特別授業で数学の面白さを伝える、という切り口で外部の方をお招きしたのは初めてです。例えば、本校の先生が数学の授業をして、それをいろいろな方が参観したあとに協議をすることはありましたが……。
生徒に、教科書からの学びだけでなく、こんな面白さがあるんだよ、と伝えられるのはとてもありがたいです。
――ありがとうございます。「数学」を皮切りに、2回目以降ではICTの活用まで視野を広げましたよね。野口校長が考える「math channelとICTで叶えたいこと」を教えていただけますか?
野口校長:ICTでは操作方法を新しく覚える必要はありますが、それでもICTを活用することで、時間をかけずに具現化してインプットすることができます。
インプットにおいては、とくに「視覚的なアプローチ」「イメージしやすさ」が重要です。
また、イメージができることで根本的な仕組みの理解につながれば、自分で応用する場面でも解決の糸口が早く見つかるのではないかとも思います。
野口校長:今後求めることとしては、方略と素材(教材)の両面を担ってもらうことですね。
とくに、学校側だけではなかなか生徒に伝えることができない「社会と教科を結ぶ素材・教材」を提供してくれるとすごくありがたいです。
――お任せください。今回の特別講座では、我々が先生方に手法をお伝えする形式ではなく、生徒の皆さんに直接、特別授業を行うという形を取らせていただきましたが、なぜこの形式にしようと思ったのでしょうか?
野口校長:三角形の2辺を通るのと斜辺を駆け上がるくらいの違いがあると思っています。
横山さんが先生方にレクチャーして、先生が生徒に教えるのって2段階なんですよ。でも、直接、外部講師として特別授業をしていただけると、子どもたちにとっては1ステップですよね。
さらに、その特別授業を先生方が客観的に見ることによって、いいところを取り入れたり、生徒の反応も見たりすることもできます。
生徒たちの反応は「とてもいい」
――ありがとうございます。次に、生徒の皆さんの反応について伺いたいのですが、いかがですか?
野口校長:印象だけになってしまうのですが、とてもいいです。
例えばですね、私がいつも学校便りに「学びを楽しむコーナー」として算数・数学の問題を紹介していますが、の右下に載せている数学の問題が2つあるんです。これまでは2問とも解けないと(完璧にならないと)、私のもとに見せに来なかったんですけど、今では、途中までの方法や考えを評価してもらおう、持ってきていいんだ、という行動を生徒から感じています。
今回の取り組みを通して明らかに「数学って、教科書だけじゃないんだ」と「面白いんだ」というが意見が多いので、これからは継続的に変容を見ていきたいですね。
――授業を受けているというより、生徒が自然体で課題に取り組んでいる感じでしたね。
野口校長:そうそう。6月だとまだなんだか落ち着かないというか、学習に対して学級が安定しない雰囲気ってあるんです。
そういう時期がある一方、9月頃になれば、環境に慣れる子どもが増えます。
教育現場には環境の変化もあるので、学級に来ていただくのは定期的な方がいいと私は思っています。横山さんの特別授業を通して、子どもたちだけでなく先生方にとっても学ぶ気持ちが芽生えますね(笑)。
――今回の授業をご見学頂いて、野口校長にとって印象的な生徒さんはいましたか?
野口校長:たくさんいましたよ。私は、いつもふらっと授業を見に行くんですけど、Aさんは明らかにいつもより意欲的でしたし、Bさんも普段以上に頑張っているなと、感じます。
野口校長:Cさんも今回の授業でたくさん褒めてもらえて、自由に自分を表現する体験をして、それを評価してもらえるので、きっと生徒にとってもよかったんだと思います。数学が苦手な生徒はとくに気にして見ていますが、Dさんは印象的でした。
――そんな風には見えなかったですよ!
野口校長:そうですよね。頑張って自分で表現しようとしていましたし、ダイナミックな作図ができているな、と感心しました。
答えが一つじゃない「オープンな課題」だからこそ、大胆に表現できる
――どうしてそのような変化が起こり得たのだと思いますか?
野口校長:やっぱり、オープンな課題だったからと思います。つまり答えは一つじゃない。
自分の意志でグラフをつくっているという状況を与えられたことが理由だと思います。
横山さんは、「3X+4Y=何々のとき、この問題を解きなさい」という問いかけをしないじゃないですか。
――そうですね。
野口校長:学校には、こういう問題が得意な生徒もいるんです。その生徒に、「グラフを自由につくりなさい」というと、正解がないので何を拠りどころにしていいかわからなくなると思うんですよね。
逆に、正解のある勉強が苦手な生徒でも「とにかくやってみよう」と思うことさえできれば、大胆に表現できて創造力を評価されることだって十分にあります。
野口校長:「とにかくやってみよう」という思考は、実はすごく有効な数学の問題解決の手段なんだっていうことを私が再認識できたので、ちゃんと生徒たちに教えてあげなくちゃいけないと強く思っています。
大人の世界でも、よくわからないけどとにかくやってみたら糸口が見つかることって、ありますよね。
――「オープンな課題」にICTの要素が加わることでプラスして得られるメリットはありますか?
野口校長:ありますよ、すぐに「見える」ことです。試行に対してすぐにフィードバックされるのはまさにデジタルの良さですね。
――野口校長がおっしゃった、「勉強が得意な子ほど自由な思想ができなくなってしまう」というお話に共感しました。
野口校長:もちろんすべての生徒がそうであるというわけではありません。ただ、レールの通りに学習していた子が、そのレールがなくなった瞬間に、どこ向かって走っていけばいいかわかんないっていうことがあるということですよね。
「こうしなさい」に慣れてしまうことは、ある意味エネルギーがいらなくなることと同意です。自由に生きていいよ、と放り投げられるとつまずいてしまう。
だからこそ今、数学でできることがあると思っています。
「今日は何を勉強しようか」という投げかけだったり、子どもたちに何をすればいいんだろうっていうのを考えさせる時間を与えるかどうかは大きいですね。
公教育とmath channelのコラボレーションで「生きる力」を育てる
――最後に、野口校長が考えていらっしゃる、「目的達成のために今後math channelとどう歩んでいくか」といったビジョンをお聞かせいただけますか?
野口校長: 最終的には自分の頭で考える人間にならないと駄目だと思っているんです。
やっぱり数学って、考える素材がいっぱいある素晴らしい教科だと思うんですよね。
「考える」「問題を解決する」っていう力を身に付けるための素材は、学校現場だけでなく、math channelとの関わりを含めたいろいろところとの関係から生じて、それが生徒の生きる力になっていきます。
野口校長: あとは、生徒にとって数学が授業だけで終わらない存在となってほしいです。
50分の授業で数学を学んで疲れたけど、その中でどうしても気になる疑問が湧いたから、友達と休憩時間で考えてみたり家で取り組んだりできるテーマが1つでもあればいいですね。
そのテーマが教科書から得られないということではないですが、math channelなど外から素材を提供してもらえたことによって、可能性が広がることに期待しています。
―― 外から提供できる役割や価値って、他にどんなことがありますか?
野口校長:math channelの良さの一つで、「夢中になっている大人」という軸があります。大人が何かに夢中になっているのって、すごく魅力的に映りますよね。
「あれ?大人が、数学を楽しそうにやっているぞ?」という像を見せるということが、子どもにとって「数学って面白いんじゃない?」っていう影響が与えられると思います。
数学のお兄さんという肩書きさえも、子どもたちにとっては興味関心の対象ですね(笑)
―― 「面白い学び」、「楽しい学び」が学校全体に普及していくといいですね。
野口校長: そうなんです、学びっていろいろ人に教わってこそ学びだと思うんですよ。刺激を受けて、もっと工夫してみようって思うじゃないですか。
そういう意味では、横山さんが子どもたちに教えるっていうところが、私はmath channelの魅力だと思いますよ。一方的に話を聞く講演会の形式からでは、得られないことも多いですから。
横山さんの授業の中でも、先生方の出番を作ってもらうことで、子どもたちも「みんなで一緒に授業をつくっているんだ」ということを理解すると思います。
――まさに公教育とmath channelのコラボレーションですね。
野口校長: はい、学校経営において外部の教育力をいかに取り入れていくかが重要です。その機会をいただけたので、いろいろところへ行っても、「数学のお兄さんが来ます」、「この本の人が来るんです」っていう会話をします。「いいでしょう」、自慢したり(笑)。でも、そういうふうに言ってやっぱり価値を上げていくことも大切だと思っています。
――ありがとうございます(笑)。
野口校長:この立場になって思うのは、校長って学校をファシリテートしていくことが必要、ということです。社会との関わりを作り、(特に数学では)先生方の指導力も上げたいし、子どもたちの数学の学力や考える力も向上させたいです。つまりmath channelとのコラボレーションは一石二鳥どころではなくてそれ以上の価値がある、ということですね(笑)
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