算数は「問題が解けなくても面白い」って、本当ですか?【math Interview】

こんにちは、math channelマガジンデスクのほんです。

math channelマガジンを運営するmath channelは、10代から60代まで、約40名のスタッフで運営しています。

math channelのメンバーたち

彼ら彼女らは、どんな子ども時代を過ごし、どんな風に算数や数学と関わってきたのでしょうか。
そんなmath channelメンバーの「今まで」「これから」について、子育て・教育系フリーライターであり、小学生2人を育てる母でもある私、ほんが話を聞いていきながら、算数・数学につながる新しい扉を開いていけたらと思っています。

今回登場していただくのは、御三家筑駒専門塾「Z会エクタス」にて算数主任を務めるタッキー先生こと滝澤幹先生です。

滝澤 幹(たきざわかん)
<profile>
御三家筑駒専門塾Z会エクタス算数主任・指導歴30年。
本当に必要な学習にじっくりと時間をかけられるよう、
「すべての問題を解くのではなく、問題を見極める力を子供が身に着ける」ことを目指した指導スタイルで、御三家・筑駒合格者を多数輩出。
math channelの算数との向き合い方に強く共感し2020年より「難問算数で遊ぼうプロジェクト」の主宰として参画。開成中学校・高等学校卒業。

指導歴30年の算数講師がmath channelに惹かれたワケ

ほん

算数の指導歴30年のタッキー先生がmath channelに出逢ったきっかけは、何だったのでしょうか?

Twitterで横山明日希さんのツイートがたまたま流れてきて、それを見て面白いな、と思ったのがきっかけでした

ほん

日付の数字で遊んだりするやつですよね! 実は私も明日希先生のTwitterでmath channelを知りました(笑)面白いですよね!

math channelマガジン編集長・横山明日希の日付Tweet

ほん

中学受験算数のエキスパートであるタッキー先生には、math channelの算数はどのように映ったのでしょうか……?

タッキー先生

本当に、算数や数学を遊びのように楽しんでいて、「なかなか面白いことやってるな」と思いました。
我々が扱う受験算数では、算数や数学は良い中学、良い高校大学に入るために手段なので、『これとこれをやっておかなければならない』というものなんです。

ほん

“やらないといけない”っていう、『mustとしての算数』、ですね。

タッキー先生

そう。
『良い学校』という次のステップに進むために手段だし、そのための修行。言うならば、子どもにとっての『仕事』なんです。
でもmath channelでは、『算数を一緒に楽しもう』というスタンスで取り組んでいて、そこに興味を持ちました。

ほん

タッキー先生が取り組んでいらっしゃる受験の世界でも、やっぱり「楽しさ」を求められているということでしょうか?

タッキー先生

実は、塾では『厳しくしてください』という保護者のニーズが多いんです。

ほん

えっ、そうなんですね!

タッキー先生

昨今、学校で先生があまり叱らないから、塾では叱ってくださいという保護者の方が多いんです。
叱ること自体は難しくないんですが、厳しく叱る以上に楽しませないといけない。

ほん

確かに、叱られるだけだったらどんどん嫌になって、算数を嫌いになっちゃいますよね……。

タッキー先生

そうなんです。
だから今までは、くだらない冗談を言ったり面白い動きをしたりして笑わせる方向に走りがちだったんだけど、算数や数学そのもので楽しく伝えることができたら、それに越したことはないんですよね。

ほん

確かに、そうですよね。

タッキー先生

だから、math channelで算数や数学を遊びのように楽しむ仕組みを知って、自分の幅を広げたい、というのがきっかけでした。

ほん

指導歴30年の実績があるのに、それに満足せず新しいものを取り入れようとされるのがすごいです!

「解けたら楽しい」を体験した小学時代

ほん

タッキー先生は、子どものころから算数が好きでしたか?

タッキー先生

小学5年のときに東京に越してきたんですが、それまでは神戸の東灘区というところに住んでいました。灘中のおひざ元で、普通の公立小学校なのに、毎年5、6人灘中に入るんです。

ほん

公立小学校から灘中にそんなに! 

タッキー先生

神戸で、スパルタの算数塾に通っていました。
算数の分厚い本を3冊渡されて、それを朝から夜までずっと解いてたんです。

ほん

わー、過酷……。つらくありませんでしたか?

タッキー先生

それがね、初めはやらされてる感じつらかったのが、やってるうちに楽しくなってきて。

ほん

楽しくなるものなんですか!?

タッキー先生

解けたら楽しいんですよね。

ほん

確かに!
算数って、「解ける快感」みたいなのはありますよね。

タッキー先生

そう。クイズみたいにね。
難しい問題は答えを見ちゃって『なるほど』って納得して、覚えたらそれをすぐ次の問題に活かす、みたいな。
そうやって解いていくと、だんだん面白くなってきたんです。

ほん

それが、タッキー先生にとっての算数の原点なんですね。

算数は、『解けなくても楽しい』!?!?

ほん

一つ、疑問があるんです。

タッキー先生

なんでしょうか?

ほん

私もmath channelの「体験を通して算数の楽しさを知る」というコンセプトが好きで、うちの子も算数パズル教室を受講してるんですが、「体験」とか「楽しくやろう」みたいのって、“初歩的なこと”をするイメージがあって。

タッキー先生

ふむ。

ほん

「楽しく」というのはあくまでも入り口であって、難しくなってくると楽しむ暇もなくどんどん解くしかない、みたいな感じになっていくのかなぁと……。

タッキー先生

なるほど。

ほん

先生が携わっていらっしゃる中学受験の算数も難しいレベルのものだと思うんですが、難しい算数も楽しく取り組むことって、果たしてできるんでしょうか……?

タッキー先生

できます。

ほん

断言された!
どうすれば楽しめるんでしょうか!?

タッキー先生

先ほど、私の小学校時代の話をしましたよね。算数の問題は解けたら楽しい、っていう。

ほん

はい。クイズ問題を解くような感覚の、「解ける快感」というやつですね

タッキー先生

解けたら楽しい、っていうのは普通のことで、みんなそうなんです。でもそこを覆すのが一番なんです。

ほん

え、覆す? ってことは、解けなくてもいいんですか?

タッキー先生

はい。解けなくてもいいんです。

ほん

まさか。

タッキー先生

受験でも学校の算数でも、正解することが大事で、正解することが目的になっていますよね。だから、解けなかったり、わからないと、楽しくない。

ほん

はい。そう思ってしまいます。

タッキー先生

でも、解けなくてもいいんですよ。ああでもない、こうでもないって一生懸命考えている、そんな自分こそが楽しいんです。

ほん

考える過程を楽しむ、ということですね!

タッキー先生

そうです。
それで、解説を聞いて『なるほど、そういうことか!』って、種明かしみたいな楽しさもあるかなと思います。

ほん

自分で答えを見つけられなかったとしても、それはそれで構わない、ということか。

タッキー先生

はい。自分で考えて自分で見つけられたら一番うれしいけど、そうでなくても、解説を聞いて『あ~そっかー! くっそー!』みたいな楽しみ方で、全然かまわないと。

ほん

なるほど! それって、ゲームに似ているかもしれません。

タッキー先生

ゲーム?

ほん

はい。例えば昔ながらのスーパーマリオブラザーズだったら、ゴールできたら嬉しいけど、それだけじゃなくてゴールまでの過程も楽しいし、もっと言うと、ゴールできなくて途中で落ちたりしても笑っちゃうっていう(笑)

タッキー先生

そうですね。クリアできなくても「あのゲームは楽しい」となると思います。

ほん

私ゲームがめちゃくちゃ下手で、マリオでも「♪タラッタッタラッタ!」ですぐ落ちちゃうんですが、それはそれで盛り上がりました(笑)。それに、上手な人がゲームするのを見てるのも、「すごい!すごい!」って盛り上がりますよね。

タッキー先生

そうなんです。きれいに解くのを見るだけでも、『なるほど!』と楽しいと思うんです。
明日希さんとやっていた『難問算数で遊んでみよう!』という講座では、難しい問題を我々が解くのを見てもらっていました。

『難問算数で遊んでみよう!』のワンシーン。
チャットも盛り上がっています。
ほん

解くのを見るだけでも面白いですね! それ、最近子どもたちに人気の、「ゲーム実況の動画を観るのが楽しい」っていうのと、通じるものがありますね。その発想って、今までありませんでした。

タッキー先生

そうでしょうね。
算数に限らず、『苦手になる』というのは『できないから』というのが多いと思います。だからこそ、『できなくても楽しい』という考えを広げていけたらと思っています。

ほん

苦手だからできない、できないから苦手、ではなくて、「できなくても楽しいんだよ」という発想って、算数以外のあらゆることに応用できますよね!

タッキー先生

それこそが、教育でできることの一つだと思っています。
これから、いろんな方法を使ってその考えを広げていけたらと。

ほん

そうですね!
自分なりの楽しみ方を見つける力を身につけられたら、これからの人生のとって大きな力になるように思います。

タッキー先生

今は、その考えを広げるための「耕す段階」だと考えています。

中学受験算数は、人生で「やらなくてもいい科目」。だからこそ、面白い

ほん

タッキー先生が明日希先生と一緒に配信された『難問算数で遊んでみよう!』の講座には、そんな思いが込められていたんですね。
俄然参加してみたくなりました!

タッキー先生

今は、『難問算数で遊んでみよう!』をもっと継続的なコンテンツに進化させた小4~6年生対象の『算数表現力ゼミ』をやっています。

『算数表現力ゼミ』 でのワンシーン。現在は、問題+動画のオンデマンド配信を実施中。
ほん

レベル的には、どれくらいから参加できますか?
”難問”と言うからには、難しいのかなと思ったり……。

タッキー先生

いろいろな子が来てますよ。
『難問』と言ってるから難しい問題を扱ってますが、解ける解けないではなくて『解けなくてもいいよ』とずっと話しているので、最後に感想を聞くと『解けなかったけど楽しかった!』と言ってくれます。

ほん

すごい! 面白さが伝わっているんですね!

タッキー先生

ちょっと言わせてる感もあるかもしれませんが(笑)。

ほん

どんな子でも、難問算数を楽しめるんですね! こんな人に参加してもらいたい、というのはありますか?

タッキー先生

中学受験をしない子にも、ぜひ来てもらいたいですね。算数というのは非常に不思議な科目で、中学に上がると『算数』という言葉はなくなっちゃう。

ほん

中学以降は「数学」になりますね。

タッキー先生

だから、中学受験の算数というのは、ある意味全然やらなくても人生に支障がないんですね。

ほん

確かに、中学受験をしなくても中学、高校に進むことができます。

タッキー先生

そう、中学受験の算数をやらなくてもそのまま東大に行くこともできる。
そんな小学校の間しかやらない、やらなくても構わないという特殊な科目だからこそ、中学受験算数の面白さがあるんじゃなかと思っています。

ほん

そうなんですね!

タッキー先生

だから、普段中学受験算数に触れない人にも、面白さを体験してもらいたいなと思っています。

「算数のおじいさん」になりたい

ほん

今後、math channelではどのような活動を予定されていますか?

タッキー先生

『算数表現力ゼミ』以外にも、YouTubeで数学ネタの動画を配信しています。

ほん

これですね!

タッキー先生

あとは、明日希さんとも一緒に生配信もやっています。

ほん

見ました! チャットも盛り上がっていましたよね!

タッキー先生

実はね、本が出たんですよ。

ほん

おめでとうございます!

タッキー先生

明日希さんと一緒に、中学受験算数の面白い問題についてあれこれ話している本です。

ほん

この本、すごいですよね!
開成、麻布、雙葉、灘、桜蔭、渋渋ほか、早々たる難関中学校の入試問題を扱っていて!

タッキー先生

たくさんの面白い問題に触れてもらうために、いろいろ集めました。

ほん

しかも会話形式になっているから、するすると読めました!

平凡社ホームページhttps://www.heibonsha.co.jp/book/b596110.htmlより
ほん

受験算数の世界で30年のキャリアがあるのに、それに甘んじず今からまた土壌を耕そうとされているのは本当にすごいです。

タッキー先生

今54歳なんですけど、50代くらいになるとみんなこんな感じなんじゃないですか?

ほん

え、そうなんですか!

タッキー先生

みんな別のことしたがってます。ずっと同じことしてると飽きるんだよな。

ほん

なるほど(笑)確かに人生100年時代と言われていますから、まだ半分あるわけですもんね。

タッキー先生

この仕事は、じいさんになったらじいさんになったでやりようがあるから、面白いんですよね。『おじいさん先生』『算数のおじいさん』って呼ばれてるかも(笑)。

ほん

新しいことを取り入れている『おじいさん先生』って、一番いいですね! タッキー先生の活動、これからますます楽しみです!

* * *

まさか、「算数・数学」と「ゲーム実況」に、そんな共通点があったなんて……。

「解けたときの快感」くらいまではなんとなく予想できたのですが、「解けなくても楽しい」というのが嬉しい予想外で、目からウロコがぼろぼろ落ちました。

確かに、これからの時代は、答えがある問題を解くだけではなく答えがない問題を解いたり、そもそも問題そのものを自分が設定して解いていく力も求められると言われています。

そんな時代にこそ、「過程を楽しむ力」を持っているかどうか、がとても大切なのかもしれません。

そのためには、ゲーム実況も親子で一緒に観て楽しみ、タッキー先生の動画も一緒に観て楽しむ、そんな感覚が大切なのかもしれませんね!

よし、さっそく今夜、子どもと一緒に観てみようかな!

ほん

(あと個人的には、タッキー先生の「面白い動き」というのが気になってたまらないのですが、いつか見る機会ありますでしょうか!?)

(文責:洪愛舜)

math channelマガジンでのタッキー先生の記事はこちら

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この記事を書いた人

ほん(洪愛舜)のアバター ほん(洪愛舜) math channelマガジンデスク/編集者・ライター

math channelマガジンデスク担当。育児・教育ライター/編集者。math channelお手伝いライター。立命館大学理工学部を卒業後、出版社勤務を経てフリーの編集・ライターに。特に育児・教育系の雑誌やwebメディアの企画、構成、取材、執筆や、書籍の編集・執筆に携わる。小学生1女1男2児の母。実は子どもがmath channelの講座を受講する保護者でもある。