こんにちは、みうらです。
前回は「平面充填」の記事を書きました。
今回は、数学用語について紹介します。
日常会話に数学用語が使われることがあります。その際には、正確さと適切な文脈が非常に重要です。以下では、いくつかの数学用語について、数学としての用法と日常会話での用法を比較し、その意味の違いを考えます。本記事により、混乱を避けつつスマートに数学用語を使っていただけるように願っています。
まずは、ウォーミングアップ的に、数学用語としての「または」と日常会話での「または」の意味の違いから。
【または】
◎数学での使い方
数学では、与えられた条件のうち一つが成り立つ場合も両方が成り立つ場合もOKです。
通常、次のように表されます。
A または B(A or B)
たとえば、「整数 x は2の倍数または3の倍数である」というとき、具体的なx の値は、
です。細かく言うと
赤字は2の倍数であって3の倍数でないもの
青字は3の倍数であって2の倍数でないもの
緑字は2の倍数であって、かつ3の倍数であるもの、つまり6の倍数
のことです。
◎日常会話での使い方
日常会話では、「または」は、選択肢のうち一方が選ばれることを示します。つまり複数の選択肢の中からどれか一つを(排他的に)選ぶことを示します。
例えば、「今夜のディナーメニューではピザまたはパスタを選べます」という表現を考えてみます。この場合「または」は、ピザかパスタかのどちらかを選ぶことができることを示しています。両方を選ぶことはできません。
数学の世界と日常会話での「または」は異なる意味を持ちます。喫茶店のモーニングサービスで、コーヒー「または」紅茶が選べる場合、両方下さいと言って、店員さんに「はぁ?」って言われないようご注意を。
続いて、確率統計、つまり確からしさに関わる分野の用語から「平均」、「期待値」と「母数」を取り上げます。
【平均】
◎数学での使い方
よく知られているように、データの合計値をデータの数で割った値です。
◎日常会話での使い方
平均は「標準的」または「典型的」なものを指します。例えば、「彼は平均的な学生です」という言い方をします。非常にあいまいですね。平均的ってどんな学生? 特別な優れた成績や低い成績の科目がなく、特別な能力を持たず、特別な趣味もない学生かな。
日常会話の場合は突っ込みどころ満載です。「平均的な…」と言われたら、是非「それどんなこと?」と尋ねてみてください。
【期待値】
◎数学での使い方
数学用語としての期待値は、確率論や統計学などの分野で重要な概念です。これは、ランダムな実験や事象の平均的な結果を表す数値で、確率変数の各値をその確率で重みづけした平均です。以下は数学的な期待値の一般的な記号と計算式です:
E(X) = Σ (x * P(x))
ここで、E(X) は確率変数 X の期待値を表し、x は X の各値を、P(x) はそれらの値が発生する確率を表します。
6面のサイコロを振る場合を考えてみましょう。
出目(1から6)の期待値は
(1+2+3+4+5+6)/6 = 3.5
です。これは、サイコロを多数回振った場合に、平均的な出目が3.5に近づくことを意味します。
◎日常会話での使い方
日常会話での期待値は、予想される結果に対する期待の度合いです。期待や希望に関連する感情や予測に基づいて使用されます。例を以下に示します。
「現政権に対する期待値が高い」
「成果は期待値以下だった」
数学の期待値には、期待や希望のような感情は入っていませんので要注意です。当然、高低もありません。
【母数】
◎数学での使い方
母集団確率分布の特徴を表す特性値、つまり母集団の平均や分散等のことです。
◎日常会話での使い方
分数における分母からの連想でしょうか、集合の要素の数のつもりで使われがちです。
たとえば、「母数が多いため、この大学にはさまざまな特技を持った学生が在籍しています。」という表現です。
数学用語と日常語としての使い方が、かなり違う例です。日常会話での使い方をしていると専門書を読んだときに意味が分からなくなりますので、ご注意を。
図形にかかわる用語もありますよ。
【平行線】
◎数学での使い方
同一平面上で、どこまで行っても交わらない複数の直線の間の関係です。
◎日常会話での使い方
「議論は平行線をたどる」、「交渉は平行線のままだった」のように使います。互いの主張・意見などがどこまでいっても妥協点の見いだせない状態をいいます。
これは、数学用語も日常/ビジネスでの用法もずれがありません。安心して使えます。
【ベクトル】
◎数学での使い方
速度などのように、向き(方向)と大きさを共に持つ量のことをベクトルといいます。
◎日常会話での使い方
一般的な会話では、「集団を構成する人々(会社員など)の方向性を統一する」という意味を表現するために、「ベクトルを合わせる」という表現を使用します。これは、構成員全員が共通の目標に向かって協力し、調整している状態を指します。
ベクトルの意味自体はそれほど離れていませんが、数学では「合わせる」という表現はあまり一般的ではありません。「ベクトルを加算する」や「ベクトルを変換する」といった表現が一般的に使用されます。また、日常会話での使用方法はベクトルといいながらも方向のみを意識しているようです。大きさも必須要素であることをお忘れなく。
【負のスパイラル】
◎数学での使い方
スパイラルとは螺旋(らせん)、つまり渦巻のことです。数学的に関数の形で表した場合、パラメータに負(つまりマイナス)の数が現れることはありますが、そのような形を負のスパイラルと呼ぶことありません。
◎日常会話での使い方
例えば、
というような状況を日常会話で「負のスパイラルに陥る」と表現します。要するに悪循環の意味で使われています。政府資料には、「縮小スパイラル」という語が悪循環の意味で使われている例*もあります。
スパイラルは螺旋ですから、循環とはちょっと異なりますね。
* 選択する未来 -人口推計から見えてくる未来像--「選択する未来」委員会報告 解説・資料集
(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s2_3.html)(平成27年10月28日発行)
まとめ
いかがでしたか。今回は、私が日頃から気に留めていた日常語と数学としての用語の違いの一端をご紹介しました。用語の違いを理解し、適切に使用することで、日常会話で数学用語を使う際の混乱を避けることもできます。そして、数学用語を巧みに取り入れ、格調高い?コミュニケーションをお楽しみいただければと思います。
なお、単語の中には起源が数学に由来しているのか、あるいは一般的な用語が数学でも使用されるようになったのかわからないものもたくさんあります。数学で使われている用語の由来を調べることも、面白いかも知れませんよ。
(文責:三浦章)